「スクラムガイドのガイド」づくりを通してあらためて学んだ話

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tl;dr

  • スクラムマスター育成に道具は必要!
  • 育成にはやっぱりスクラムガイド?
  • でもスクラムガイドってなんだか読みにくくない?
  • そこで、スクラムガイドを読みやすくするガイドの作成を試みた
  • →その結果、思った以上に自分の勉強になった、という話

はじめに

合同会社DMM.comの内藤(@sasatoshin3104)と申します。
開発統括本部VPoE室という横断組織に所属しており、社内では主にアジャイル・スクラムに関する支援業務と仕組みづくりを担当しています。
今回ご紹介するのは、スクラムマスター育成に関わる新たな支援ツールが必要になり作ってみた、というお話です。

前提・スクラムガイドとは

この先、スクラムガイドの読みにくさ、とっつきにくさ1について書いていくのですが、その前提としてまずスクラムガイドについて軽く押さえ直します。
スクラムガイドとはアジャイルフレームワークのひとつである「スクラム」唯一の公式ドキュメントです。各国語に翻訳されたPDFが無料公開されています。日本語版でも実質14ページの、非常にシンプルなドキュメントです。
そんな一見シンプルなスクラムガイドですが、後述の通り、スクラムガイドを読むコツが必要になるほど、スクラム初学者はとっつきにくさを感じやすいです(私見)。

この記事で伝えたいこと

この記事を通してお伝えしたいポイントは2つあります。いずれもスクラムガイドの読み方に関することです。

1つ目のポイントはスクラムガイドを読む時のスタンスです。
スクラムガイドをただ読むのでなく、誰かに説明するつもりで別の言い方を考えながら読むことで学びが深くなる、ということです。他者への説明の代わりに、読んだ理解の要約化や図表化も思考整理に有効だと思います。
別の言い方をするなら、スクラムガイドの文章はとても洗練されているため、何も考えずに読むと少しも引っかからずにするーっと読み飛ばせてしまうのです。
この一連の読み書きを通して、軽く流し読むよりも「これってどういうことだろう?」と引っかかる回数が増え、学びとるチャンスも増えやすくなります。今回私はスクラムマスター育成のためにあらためてスクラムガイドを読み直したのですが、これが深い理解につながったと考えています。

2つ目のポイントはスクラムガイドの構成についてです。
スクラムガイドは一見構成もきれいに章組みされて読みやすそうですが、実は個々の文章がお互いに関連し合っており、読む順番どおりには理解しにくい傾向2があります。
そのため、読者はスクラムガイドを何度も行きつ戻りつしながら、全体を見回しながら個々の文章を理解していくことが学習の近道ではないかと経験的に感じています。今回私も「スクラムガイドのガイド」を書くために、スクラムガイド内に散らばる類似表現や関連を何度もたどったことが、深い理解につながったと考えています。

背景・解決したい課題・原因

最近、アジャイルコーチとして新人スクラムマスター育成支援のご相談をいただきました。「スクラムの学習」と「スクラムマスターになる学習」は多少違う知識が必要なものの基本は同じですし、支援する側される側の双方に共通言語が必要です。そこで、支援の前提として、スクラムガイドを読んでもらうことにしました。

もちろんスクラムガイドはとても素晴らしいドキュメントです。あのシンプルなドキュメントにスクラムのすべてが書かれています。しかし前述の通り、スクラムガイドは初学者には読みにくい という課題があります。そのシンプルさが一見してピンとこない言い回しとなり、読みにくさを増している気すらします。ガイドの本質や行間を補いながら読めるまでに(そしてスクラムマスターの自律自走までに)時間を要する懸念もあります。

▼ 一見してピンとこない言い回し例

  • 【透明性】「スクラムにおける重要な意思決定は、3つの正式な作成物を認知する状態に基づいている。」
  • 【スクラムの作成物】「作成物を検査する人が、適応するときと同じ基準を持っている。」
  • 【スクラムの作成物】「これらの確約は、スクラムチームとステークホルダーの経験主義とスクラムの価値基準を強化するために存在する。」

また、スクラム実践上の別課題として、スクラムガイドには具体的な実践例(プラクティス)が書かれていない3ことも挙げられます。スクラムガイドにも「状況に依存するパターン・プロセスといった戦術はスクラムガイドの対象外」4「スクラムはシンプルなフレームワークで、さまざまなプラクティスを包含する(=つまりプラクティスは含まれない)」5的なことが書かれています。

これらの課題は、スクラム実践におけるプラクティス選択の自由度の高さとして初学者を困惑させてしまい、結果的に、思考停止からもっと手軽で即効性のある具体的方法を求めてしまいかねません。このことからスクラムマスター育成には、スクラムの学習を助け、実践的なプラクティスをつなぐツールが必要だと考えるに至りました6

▼ 新たなツールのイメージ

  • スクラムガイドの深い理解を助け、スクラムマスターが自ら学習していけるきっかけ、が目的
  • スクラムガイドに書いてあることの解説にフォーカス
  • スクラムを実践するプラクティスの解説は補足的に解説
    • ここは既存の学習コンテンツで担保したほうがいいと思ったため

作ってみた!「スクラムガイドのガイド」!

ということで前置きが長くなりましたが、「スクラムガイドのガイド」を作ってみました。 社内向けドキュメントとしてConfluenceで公開しており、今回はその一部を抜粋して掲載します。

図1 スクラムの作成物 図1 「スクラムガイドのガイド」より「スクラムの作成物」

作成上のポイントを以下に挙げます。

読み手が読み方を選べる3列構成

大きく3列構成にしました。左から以下です。
1. スクラムガイドそのもの
2. スクラムガイドを再解釈して情報整理・付与したもの
3. 一番右が補足の補足、または関連するプチコラム

基本的には、行間や不明を補うようにしています。
基本構成はスクラムガイドに準拠し順番もそのまま、目的・定義・理論から各論(価値基準・役割・イベント・作成物)の説明に進む構成とし、その章立てのまま解説を追記しました。
読み手はガイドと解説だけ読むもよし、私の解釈したコラムまで読むもよし、読み手が読み方を選択できるようにしました。

要素のページ分解と相互リンク

社内公開向けにConfluenceで作成しています。
関連するワードが出てきて疑問に思っても、すぐにそのワードを調べやすいよう、ワードが複数箇所から引用されることを想定し、その解説ページをワード単位に分解しました。wikiリンクの強み(リンク設置が簡単)が出しやすくなったと思います。

結果・成果

以下はConfluenceの閲覧状況を、Google Analytics 4(GA4)に取り込んで探索レポートで可視化したものです。そこそこの社員に読んでいただけていることがわかります。

図2 スクラムガイドのガイド ページのエンゲージメント 図2 「スクラムガイドのガイド ページのエンゲージメント」

この「スクラムガイドのガイド」を使った育成支援の成果が出るのはこれからだと思いますが、このツールを作成したことで、自分自身も、スクラムガイドの一文一文について理解の甘い箇所を再認識できたのは思わぬ副産物でした。
前述した透明性における「認知した状態」や作成物における「同じ基準」「確約は経験主義と価値基準を強化するために存在」は、まさに今回のガイド作成であらためて気付かされた点でした。

留意点・デメリット

ここがもっとも重要な部分かもしれませんが、今回の「スクラムガイドのガイド」を鵜呑みにして、これでもう学ぶものはない!と勘違いするのが一番あぶなっかしい誤解です。
結局実践(実戦)から学ぶことはとても多く、チャレンジや失敗からしか得られない深い学びや教訓があります。プラクティスもそのチームで使い込んでようやく分かるコツがあるはずです。

まとめ

本記事では、スクラムマスター育成にはスクラムガイドの解説が必要ではないか、と考えてツール作成したことと、その中で自分自身のあいまいさに気付かされ、あらためて考え直すことでスクラムガイドへの理解が深まったことについて書いてみました!
あと、スクラムガイド以上に短く表記することはかなり難しく、あらためて、スクラムガイドの凄みを感じました!

少しでも皆さんの参考になりましたら幸いです!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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  1. 書いてある言葉の意味は理解できても、その言葉の意図、真意を理解しにくい、という意味
  2. 個人差があります。特に私は記憶のキャパシティが小さく、読みながら分からないことが出るとよく止まります。
  3. 今となっては、状況に応じて適切なプラクティスを自ら選択する意味も理解できますし、プラクティスを書かないことのメリットも理解できるのですが
  4. スクラムガイド「スクラムガイドの目的)」参照
  5. スクラムガイド「スクラムの定義」参照
  6. もちろん多くの素晴らしい書籍・スライド・動画・セミナー等の学習コンテンツがあることは理解したうえで