はじめに
プラットフォーム開発本部のユーザーレビューグループの松井です。
今回、私たちは AWS re:Invent 2024 に参加しました。
AWS re:Invent は、クラウドコンピューティングの最前線を体験できる世界最大規模のカンファレンスです。
今年は約 6 万人が参加し、1 週間にわたってラスベガスで開催されました。
このレポートでは、カンファレンスでの体験や得られた知見、そして今後の展望について共有いたします。 ラスベガスという独特の街並みと最先端技術が融合する様子は、まさに未来都市を体験しているかのようでした。
参加費用は 1 人あたり約 100 万円(カンファレンス参加費用 30 万円を含む)と高額でしたが、得られた経験は非常に価値あるものでした。
今回の参加メンバーは、それぞれが異なる背景と目的を持って臨み、多様な経験を得ることができました。 このレポートでは、各メンバーが参加したセッションの詳細や、得られた知見、そして今後の展望について報告いたします。
LC 開発部:神畠正稔
LC 開発部の神畠です。普段の業務ではライブストリーミングサービスで利用しているサービスのバージョンアップやサーバリプレイス、LC-SRE チームとしてシステム全体の可用性向上を担当しています。
LC ではライブストリーミングサービスを展開していますが、その配信基盤の一部に AWS を利用しています。
私が今回カンファレンスに参加した理由は主に下記の2つがありました。
- LC で新たに導入できそうなサービスや参考にできそうな構成はあるか
- AWS サービスの今後の展開や IT トレンドのキャッチアップ
結論から言うと 1 つ目については直接導入につながるものは得られませんでしたが、工夫すれば事業部提案につながる可能性のある知見は得られました。
2 つ目に関しては AWS の新サービスについての把握や近年の AWS が生成 AI に注力しており、今後生成 AI の導入がトレンドとなるであろうことを強く実感できました。
自分の記事では Keynote と参考になったセッション、全体を通しての感想を記載し AWS re:Invent の内容を共有したいと思います。
Keynote
早朝 5:30 に起床してセッション会場に並びほぼ最前列に座ることができました。会場はとても広くおそらく1万人以上座れるほどの広さがありました。
DJ が事前に会場を盛り上げながら Keynote がスタートし、初めは AWS CEO の Matt Garman が登壇し AWS の新サービスや今後の展開について発表していきました。
前提として AWS のサービスには主に下図 4 つの柱があります。
- Compute は EC2、ECS などのコンピューティングサービス
- Storage は S3 などのストレージサービス
- Database は RDS や DynamoDB などの DB
- Inference は Bedrock や Amazon Q など生成 AI サービス
その中で生成 AI サービスをより効率的に導入するための新サービスの発表がありました。サービスの内容については数が多いので割愛しますが、印象的だった新サービスを一つ挙げるとすれば AmazonEC2 Trn2 Instances がもっとも印象に残りました。
生成 AI を導入する際に EC2 インスタンスを採用する場合、より高スペックなインスタンスタイプ(一般的には Trn1 など)を採用する必要がありますが、コストが高いという問題がありました。
そこで新たに Trn2 チップを採用することで、コストを 30-40%削減することに成功したいというものです。これにより、生成 AI を導入するコスト的ハードルがビジネス視点で少し下がったのではないかと感じました。
Accelerate database performance and scalability with AWS storage
Breakout セッションという 50 人程度の参加者を集めてプレゼンテーションしていくセッションでした。
内容は DB のパフォーマンスとスケーラビリティ向上についての話でした。DB の拡張性や性能を向上させるために、AWS のストレージとしてブロックストレージ(EBS)かファイルストレージ(FSx)を選ぶことになります。その中で、EBS、FSx の仕様を細かく紐解きどれがユースケースに即しているかを説明するというセッションでした。
結論としては、SSD を活用しない DB サーバーをマイグレーションする時で、かつ運用において AZ のフェイルオーバーをしている場合は EBS が良いという話でした。
また FSx はお馴染みのストレージで瞬間的なクローンができ下記画像の通りリッチな機能があるので、多様なビジネスモデル、ユースケースに合致すれば利用するのが良いという話でした。
内容はかなり高度でしたが今後の業務に活かせるという意味では大変参考になりました。またセッションの後で発表者と参加者の議論も活発に行われており、今までの見たことないセッションで新鮮でした。
全体を通しての感想
現地参加して感じたこと
まず初めに感じたことはカンファレンスの規模が色々な意味で大きいということでした。今年の参加者はオフラインで 6 万人おり日本人は 1700 人参加していました。
またラスベガス市街がテーマーパークのような作りになっており、かつ全体の会場を使って開催していることから、世界最大規模のカンファレンスであることをブランディングしている印象を受けました。
カンファレンス全体としては今後生成 AI が主流になることを強調しており、ビジネス視点において様々なシーンで生成 AI サービスが導入できることを伝えていました。
実際に Keynote では AmazonCEO の Andy Jassy が登壇し、Amazon アプリに利用されている Chatbot サービスの Rufus が、今後の Amazon ビジネスに欠かせない存在になることをプレゼンしています。
またカンファレンスには EXPO という展示会ブースがあり、出展している各社が AWS を用いて生成 AI サービスを導入したビジネスを展開していました。
全体的にセッションや EXPO などの内容を見るとテックカンファレンスとしての側面もありますが、同時にビジネスカンファレンスとしての側面も強いと感じました。
そういう意味では現場のエンジニアが参加することに意義はありますが、マネジメント層以上の意思決定に携わる上位レイヤーの方が参加しても大いに行く価値があるカンファレンスだと思いました。
日本における生成 AI とその向き合い方
カンファレンスを参加して肌で感じましたが、生成 AI がトレンドになっていく中で日本の IT 業界を見渡した時ビジネスとして導入している流れは感じないので、やはり遅れていると思いました。
EXPO でも出展しているほとんどの企業は海外(おそらくアメリカ)で、日本企業は私の見た限り2社しか出展していませんでした。
私が参加したセッションの中で解説があり、日本人は個人レベルで言えば IT トレンドに対する意識は高いが、会社など組織レベルになると意思決定が遅いとのことでした。
実際に国別利用率で見ると日本はアメリカ、インドに次いで3番目に多いことがわかります。
今後日本が組織レベルで生成 AI に目を向けるのが何年後になるかわかりません。少なくとも私のような現場のエンジニアできることは、新サービスを触ってそれが担当しているシステムの課題解決に使えそうであれば、積極的に進言していく意識が必要だと感じました。
オンラインサロン開発部:國分竜二
オンラインサロン開発部、24 新卒の國分竜二です。普段は既存システムのリプレースを行っており、フロントエンドからバックエンドまで幅広い領域で業務を行っています。
オンラインサロンでは AWS を使用しているのですが、正直あまり AWS を触った経験がなかったのでこれを機に AWS について詳しくなりたいなと思って参加しました。
私が実際に体験、経験したことを共有できればと思います。
AWS re:Invent には大きく分けて5種類のセッション形式があります。
キーノート AWS の幹部による 2-3 時間の基調講演で、新サービスの発表や重要なアップデートの紹介が行われます
ブレイクアウトセッション 約 1 時間のプレゼン形式のセッションで、特定のトピックについてスピーカーが説明します
チョークトーク 約 1 時間の対話形式セッションで、少人数の参加者と AWS の専門家が質疑応答を行います
ワークショップ 2-3 時間のハンズオン形式セッションで、参加者は自身の PC を使って実践的な学習をします
ゲームデイ 2-3 時間のチーム形式セッションで、参加者はグループで課題を解決し、ポイントを競います
NVIDIA 主催の GameDay:Generative AI イベントに参加してきました。
事前予約は叶いませんでしたが、当日整理券を取得し、約 300 人が参加する大規模なイベントに参加できました。私のチームは 65 番目でした。
イベントの主軸は生成 AI 技術。提供された環境内の不具合を特定し、修正してシステムを正常化させるという実践的な課題に取り組みました。英語でのチームコミュニケーションは挑戦的でしたが、課題解決時の喜びはひとしおでした。
私たちのチームは大きな成果を収めることはできませんでしたが、生成 AI の実用例や最新技術について深い洞察を得ることができました。実践的な環境で学べる貴重な機会となり、参加して本当に良かったと実感しています。
「学び」続ける開発チームの作り方
本日、偶然知り合った方の登壇セッションに参加する機会がありました。セッションでは「ユーザーに価値を届け続けるには」という重要なテーマについて議論が展開されました。
セッション内容
ユーザーに継続的に価値を提供するためには、ユーザーの要望を迅速にプロダクトへ反映することが不可欠です。そのために重要な 3 つの要素について詳しく解説がありました。
1. チーム体制について
逆コンウェイの法則に基づき、プロダクトのアーキテクチャに合わせたチーム編成の重要性が強調されました。特に印象的だったのは、プロジェクト志向からプロダクト志向への転換がもたらすメリットについての説明です:
- 変化への迅速な対応
- 継続的なサービス提供の実現
具体例として、Amazon の Two-pizza team の事例が紹介されました。9 名以下の小規模チームが自律的に働き、プロダクトの所有権と説明責任を持つという考え方は非常に興味深いものでした。
2. 実験施策を行える環境づくり
小規模なデプロイを繰り返し行い、必要に応じて迅速に切り戻しができる体制の重要性について説明がありました。「とりあえず出してみる」という姿勢の重要性と、そのために必要な環境整備についての具体的な示唆が得られました。
3. 失敗に対する前向きな姿勢
Amazon の FirePhone の事例を通じて、失敗を次の成功につなげる考え方について学びました。この失敗体験が Echo や Alexa の開発加速につながったという具体例は、失敗を前向きに捉えることの重要性を強く示すものでした。
参加して感じたこと
現在、私が所属するオンラインサロンでも MSA を採用していますが、このセッションを通じて、完全な逆コンウェイの実現にはまだ課題があることに気づかされました。チーム体制の最適化は継続的な取り組みが必要だと再認識しました。
このセッションでは、継続的な価値提供を実現するための具体的な方法論と実践例を学ぶことができました。特に、チーム構成、実験環境の整備、失敗への向き合い方という 3 つの観点は、今後の業務に直接活かせる貴重な知見となりました。
5k race
私は3日目に行われる 5km マラソンに参加しました。
朝 5 時に起きて会場には 5 時半に到着したのですが、そこですでに長蛇の列が出来上がっていました。参加者の中には日本人の方も結構な数見受けられました。
スタート地点は大きなスタジアムでちょっとした飲食物が提供されたり、荷物の預かりサービスなどがありました。
私はバナナをかじって準備万端です。
自分の走るスピードに応じてスタート時間が変わっていたので自分は真ん中よりやや早めの 12 分経過時点でスタートしました。
早朝のラスベガスはとても空気が澄んでいて、遠くに見える山々とそこから登ってくる朝日、その朝日を反射するホテル群がすごいコントラストでした。また、BGM も爆音でかかっており専属の DJ もスタジアムで回していました。実際に走る道でも音楽がかかっており気分は上々でした。
普段からあまり走ることをしないので折り返し地点付近ですでに足がパンパンになっていました。ただ、その辛さも忘れさせてくれるような山々の絶景があったのでそれを糧に最後まで走りました。
最後に完走したメダルをもらい、チェキを撮ってもらい、靴下をもらって完走でした。
(流石に朝早かったのでその後ホテルに戻り仮眠しました)
参加してみての感想
とにかく熱気に溢れた、一週間でした。自分はついこないだまで学生だったので合宿をしているような懐かしい感覚になりました。
特に生成 AI がやっぱり激アツでした。
エキスポではあらゆる企業のブースがあるのですが、そこで話を聞くたびに生成 AI のことが話題に上がっており、世界のイケてるプロダクトは生成 AI を早くも取り込んでいてユーザーに価値を提供しているという事実を目の当たりにしました。
正直、自分が感じたのはこのままでは世界に置いてかれてしまうといったような危機感でした。生成 AI を使って開発を進めていくだけでなくて、サービスに組み込んでもっと生成 AI と向き合っていく必要があるなと強く感じました。
なので、自分の事業部でも今回のリプレースがひと段落したら生成 AI をサービスに何らかの形で組み込みたいと思いました。
今回学んだことを活かして、ユーザーからの反応が芳しくなかったりしたら切り戻すなど失敗を次に活かせるように普段の業務レベルから取り組みます。
プラットフォーム開発本部:松井高宏
私は普段、AWS を活用したシステム構築や生成 AI を活用したプロダクトの開発に携わっています。
今年、これらの取り組みに関して AWS 社主催のイベントでの登壇や記事の執筆する機会がありました。 そのような縁もあり、今回 re:Invent に参加することになりました。
関連する内容として、以下の記事もご参照いただければ幸いです。 (*後日また別記事の発表があるため、そちらも機会があれば参照いただけると幸いです)
re:Invent での主な学び
re:Invent への参加を通じて、特に以下の点について洞察を得ることができました。
1. 生成 AI の急速な普及と応用
生成 AI の普及と活用が急速に進んでいることが明確になりました。期間中、3000 以上のセッションのうち 1000 以上が生成 AI 関連であり、その注目度の高さが顕著でした。米国では様々な分野で生成 AI が実用化されています。
- 自動診断システム
- 自動車における音声通話
- パーソナライズされた教育アプリ
- 契約書の自動分析
AWS もこの潮流に対応し、Amazon Bedrock において新機能をリリースしていました。
2. 生成 AI の展望
米国では以下のように生成 AI が進化していくと予測していました。
- 2023 年:ベンチャー企業を中心とした先駆的な導入
- 2024 年:多くの企業が業務プロセスや製品に生成 AI を本格的に適用
- 2025 年:生成 AI による高度な意思決定支援や産業用ロボットとの連携が実現
そして近い将来、生成 AI はデータベースと同様に、ほぼすべてのシステムにおいて必須のコンポーネントとなる可能性が高いとの見方も示されました。
これらの学びは、今後の技術開発を考えるうえで、非常に重要な情報を与えてくれるものでした。 生成 AI の急速な進化と普及に備え、私も積極的に技術の導入と活用をしてきたいです。
社内での知識共有
帰国後、プラットフォーム開発本部内でライトニングトーク(LT)を行い、 5 分間のプレゼンテーションを通じて主要な学びを共有しました。 この資料では、技術的な内容に加えて、アメリカでの文化的な体験についても触れています。
re:Invent の雰囲気やアメリカでの経験をより詳しく知りたい方は、ぜひ以下の資料をご覧ください。
今後の展望
re:Invent での経験を踏まえ、自チームで以下取り組みも検討しています。
1. AI エージェントによる自動診断ツールの導入 インシデント発生時に自動ログを分析し、問題原因を特定する仕組みを構築。
2. FineTuning による精度向上 ユーザーレビュー分析やコンテンツモデレーションの精度向上に活用。
3. プロンプトキャッシュによるコスト削減 頻繁に使用されるプロンプトの結果をキャッシュし、コストを大幅に削減する。
これらの取り組みを通じて、より革新的で効率的なサービスの提供を目指します。 また新技術とプロダクト利便性向上のバランスを取りながら、進めたいと考えています。
おわりに
AWS re:Invent 2024 への参加は、非常に刺激的で有意義な経験となりました。
最新のクラウド技術、特に生成 AI の急速な発展と普及を目の当たりにし、その潜在的な影響力を強く実感しました。 またシステムに関する最新のベストプラクティスを学ぶことができました。
カンファレンスを通じて得た知見や人脈は、今後の業務改善やイノベーションの重要な基盤となりそうです。 この経験を活かし、より効率的で革新的なサービスの提供を目指していきたいと考えています。
最後に、このような貴重な機会を提供してくださった会社に深く感謝いたします。
ここで学んだことを最大限に活用し、さらなるサービスの発展に貢献していきます。