1. はじめに
日々、開発業務に携わる皆さま、お疲れ様です。プラットフォーム戦略室EMのさるたろうです。 プロジェクトの振り返りは、チームや組織が成長し続けるための重要なプロセスです。振り返りを通じて、私たちは何が上手くいったのか、何が改善の余地があるのかを把握し、次回のプロジェクトに活かすことができます。しかし、振り返りが適切に行われないと、単なる愚痴の場となってしまうことも少なくありません。そこで私たちはより良い成果を出すためには、この振り返りのプロセスをしっかりと活用することが重要だと考え、いくつかの具体的な観点とフォーマットを作成しましたのでご紹介します。
振り返りの重要性
振り返りは、プロジェクトの成功と失敗を整理し、チームのパフォーマンスを向上させるための貴重な機会です。適切な振り返りを行うことで、以下のメリットが得られます。
- 学びの機会の最大化: プロジェクトから得られた教訓を次回に活かすことができるため、同じミスを繰り返すことを防ぐことができます。
- チームの結束力向上: お互いの意見を尊重し合うことで、コミュニケーションが活性化し、チーム内の信頼関係を深めることができます。
- パフォーマンスの向上: 問題点や改善点を明らかにすることで、次回のプロジェクトにおけるパフォーマンスを向上させる基盤が整います。
現状と課題
しかし、残念ながら私たちのチームでは振り返りのセッションがうまく機能していませんでした。参加者が後ろ向きの意見を述べるばかりで、前向きな解決策や改善策を見つけ出すことができず、ただの愚痴会に陥ってしまっていました。 振り返り会の進行が構造化されておらず、具体的な正解が見えないまま会話が紛糾する結果、問題点だけが強調され建設的な議論が進まないことも要因の一つです。このような現象は、振り返りの時間を無駄にするだけでなく、チーム全体のモチベーションにも悪影響を及ぼします。 さらに、振り返りの際にKPTのフレームワークは活用していたものの、観点がそれぞれで揃っていなかったため、話が散漫になりがちで、結論を導き出すことが困難でした。これらの課題を解決し、効率的な振り返りを実現する必要があると感じました。
新しいアプローチの導入
そこで、新しい振り返りのアプローチを導入することにしました。具体的には、事前に振り返り観点の提示を経て、アンケート形式で回答を集める方法です。このアプローチは、参加者が各自の振り返りを行ったうえで、共通の観点に基づいて意見を交わすことが可能になります。
- 振り返りの観点を提示: あらかじめ定めた振り返りの観点をもとに、各メンバーが思考を深められます。
- 事前アンケートの実施: アンケートに回答することで、自分の意見を整理する時間を持ち、ミーティングでの効率的な話し合いを促進します。
- KPTの効果的な適用: 振り返りの観点を事前に理解しておくことで、KPT(Keep, Problem, Try)の議論が具体的で深いものとなり、成果を見出すことができます。
この新しいアプローチによって、振り返りの質を向上させ、チームの成長を促進することを目指します。次章では、振り返りの観点について詳しく解説していきます。
2. 新しい振り返り手法の導入
振り返りの観点の導入とは
従来の振り返り会が十分な成果を上げられなかった背景には、議論の焦点が定まっていないことが大きな問題としてあると考えられます。これを解決するために、私たちは振り返りの観点を明確にし、それらを会議の前に全メンバーと共有することにしました。振り返りの観点とは、プロジェクト全体を客観的に評価するための具体的な質問や評価基準のことです。以下のポイントを意識し、振り返りを行うことで、建設的な議論を促進できました。
- 客観的な視点: 自身の役割だけでなく、プロジェクト全体を客観的に評価する。
- 具体的な事例: 抽象的な意見ではなく、具体的な事例を挙げながら議論する。
- 建設的な意見交換: 批判ではなく、改善のための提案をする。
- 行動に繋げる: 振り返りの結果を活かして、今後の行動に繋げる。
- 定期的な実施: プロジェクトの終了後だけでなく、開発中の定期的な振り返りも重要。
事前アンケートの重要性と作成方法
それでもいきなりこれらの観点について話し合うのは難しいと考えられるため、事前にアンケートを活用して各メンバーに準備をお願いすることにしました。事前アンケートは、メンバーが振り返りの観点を理解し、自分の意見や経験を整理するための重要なツールです。
以下のステップでアンケートを作成しました。
- 振り返り観点の具体化: 各観点について具体的な質問を設定し、それぞれの質問がプロジェクトのどの部分を評価しているか理解できるようにします。
- 評価形式の設定: 回答は4段階評価(「大変そう思う」、「そう思う」、「そう思わない」、「全く思わない」)として、多様な意見を集めました。「どちらでもない」という曖昧な選択肢を排除し、はっきりした意見を求めることで、より具体的なデータを得ることができす。
- 自由記述欄の設置: 必要に応じて自由記述欄を設け、具体的な事例や理由を書いてもらうことで、なぜそう感じたのか、背後にある具体的な状況を把握できます。
- 記名式にする: アンケートは記名式とし、誰が何を言っているのかを明確にしました。これにより、責任を持った意見が集まり、匿名性がなくても正直なフィードバックを促しました。
振り返り観点の具体例
実際の振り返り観点として、以下の具体的な質問を設定しました。
これらの観点でアンケート結果を集めることで、振り返り会の際に具体的なデータに基づいた議論が可能となり、効率的な振り返りを実現できました。
次章では、実際の振り返り会の進行方法と、事前アンケートの結果をどのように活用したのかについて詳しく解説していきます。
3. 事前アンケートの詳細と結果紹介
アンケート内容の紹介とサンプルフォーム
新しい振り返り手法の一環として、事前アンケートを実施しました。アンケートはプロジェクトの各観点に対して評価を求め、具体的な意見を集めるために構成されています。
以下にアンケートの具体的な内容と項目をご紹介いたします。
アンケートサンプルフォーム
アンケート項目は4段階評価(「大変そう思う」、「そう思う」、「そう思わない」、「全く思わない」)として、多様な意見を集めています。また、「どちらでもない」という曖昧な選択肢は排除し、自由記述欄を設けて具体的な事例や理由を書いていただくようにしました。
以下はサンプルフォームの一部です。
- プロジェクトのスケジュールは予定通りに進みましたか?
- 大変そう思う
- そう思う
- そう思わない
- 全く思わない (具体的な理由や事例 - 自由記述欄)
- コスト(工数)は予算内で収まりましたか?
- 大変そう思う
- そう思う
- そう思わない
- 全く思わない (具体的な理由や事例 - 自由記述欄)
アンケート結果と分析
アンケート結果を収集し、各項目について分析します。具体的な所感を以下にご紹介します。
アンケート結果の所感
項目 | コメント |
---|---|
スケジュール | 一部のメンバーは順守できたと感じている一方で、ばらつきが見られていることがわかりました。各メンバーのスケジュール感の違いを深堀りする必要があると感じました。 |
多くの意見で要件定義フェーズがボトルネックになっていることが挙げられており、逆に開発フェーズに問題があるという意見はありませんでした。 | |
要求仕様・要件定義と見積、スケジュール | 要求の把握や期待を満たしたかどうかについて意見が分かれました。 |
ステークホルダーに対する認識の違いが意見のブレに繋がっている可能性があります。 | |
プロジェクト管理 | 要件変更に柔軟に対応できたかどうかについても評価が分かれました。 |
チーム内での情報共有や文書の最新性に関して、改善の余地があるとの意見が多くありました。 | |
チームとコミュニケーション | 部署やチーム間の協力体制に関する評価はおおむね良好でしたが、コミュニケーションの円滑さには改善の余地があると感じました。 |
プロジェクトを通じて新たなスキルや知識を習得できたかについて、チームごとのばらつきが見られました。 | |
技術的な側面 | 技術的な負債の蓄積に関する懸念が複数のメンバーから挙げられました。 |
使用しているライブラリやフレームワークの適合性については、おおむねポジティブな評価が多く見られました。 | |
自動化できる作業の存在やツールや環境の改善点についても、具体的な指摘が寄せられました。 |
これらの結果をもとに、振り返り会の議論が具体的かつ建設的になるように進行しました。
次章では、実際の振り返り会の進行方法と事前アンケートの結果をどのように活用したのかについて詳しく解説していきます。
4. 新しい振り返り手法の実施方法
事前アンケートを元にした振り返り会の進行
新しい振り返り手法の実施において、事前アンケートは非常に重要な役割を果たしています。アンケート結果を基に振り返り会を進行することで、会議がより効率的かつ建設的に行われました。
以下は、事前アンケート結果を元に進行した振り返り会の具体的な方法をご紹介いたします。
- 事前準備: 振り返り会の前に、アンケート結果を分析し、重要なポイントや課題を洗い出します。これにより、会議の議題を明確にし、時間を有効に活用することができるようになりました。
- 議題の共有: 会議の冒頭で、振り返りの目的とアンケート結果の要約を共有します。これにより、全員が同じ理解を持ったうえで議論に参加できるようになります。
- 観点ごとのディスカッション: アンケートで特に意見が分かれた項目や重要な課題について、観点ごとにディスカッションを行います。それぞれの項目について、具体的な事例や理由を基に議論を深め、建設的な解決策を模索します。
- ファシリテーション: ファシリテーターは、議論が脱線しないように注意を払いながら、各メンバーが均等に発言できるように進行します。また、感情的な意見が出た場合でも、建設的な方向に導く役割を担います。
KPTを効果的に話し合う手法
振り返り会の中核となるのはKPT(Keep, Problem, Try)手法ですが、これを効果的に活用するために以下の手法を取り入れております。
- Keep(維持すべきこと): 最初に、プロジェクトでうまくいった点や維持すべき点について話し合います。アンケート結果の中からポジティブなフィードバックを抽出し、それに基づいて意見を交換します。成功体験を共有することで、チームの士気を高める効果もあります。
- Problem(改善すべき課題): 次に、プロジェクトで問題となった点や改善の余地がある点について議論します。ここでは、アンケートで特に多くの意見が集まった課題を中心に具体的な事例を挙げながら進めていきます。批判ではなく、問題解決を目的とした建設的な意見交換を促します。
- Try(試してみたいこと): 最後に、次回のプロジェクトで試してみたいアイデアや改善策について話し合います。各メンバーが新たに取り組みたいことや、提案したい改善策を自由に述べます。これにより、振り返りの結果を具体的な行動に繋げることが可能となります。
- アクションプランの策定: 話し合った内容を基に、明確なアクションプランを策定します。各項目について、誰が何をいつまでに行うのかを具体的に決め、実行計画としてまとめます。アクションプランは全員で共有し、進捗を定期的にチェックする仕組みを設けます。
- フィードバックループの確立: 定期的な振り返りを実施し、アクションプランの進捗や効果を確認します。定期的なフィードバックを通じて、継続的な改善をし次回の振り返り会に活かせるようにします。 このようにして、新しい振り返り手法を実施することで、単なる愚痴の場ではなく、具体的な改善策を見つけ出し、次回のプロジェクトに繋げる建設的な会議を実現することができました。
5. 実施後の成果と改善点
振り返りの効率が向上した事例
新しい振り返り手法を導入したことにより、振り返りの効率が大幅に向上しました。以下に、その具体的な事例をご紹介いたします。
- 具体的な改善点の洗い出し: 事前アンケートの結果を基に議論を進めたことで、従来の振り返り会では浮かび上がらなかった具体的な問題点が明確になりました。例えば、要件定義フェーズのボトルネックやコミュニケーションの課題など、具体的な事例に基づいた議論が展開されました。
- ポジティブなフィードバックの増加: Keepの観点から、プロジェクトで成功した要因や良好な取り組みを確認することで、チーム全体の士気が向上しました。特に、問題解決に向けた前向きな提案が増え、メンバー間の信頼関係が深まりました。
- 行動に繋がるアクションプランの策定: 振り返り会で話し合われた内容を具体的なアクションプランに落とし込むことで、実際のプロジェクト管理や進行が改善されました。誰が何を行うかを明確にすることで、実行力が向上し、次回のプロジェクトで同様の問題が再発するのを防ぐことができました。
- フィードバックループの確立: 定期的な振り返り会を行うことで、プロジェクトの進行中に問題点を早期に発見し、迅速に対応できるようになりました。これにより、プロジェクトの進行が円滑に進み、ステークホルダーの満足度も高まりました。
改善し続けるためのポイント
振り返り会の効率向上には成功しましたが、さらに改善し続けるためには以下のポイントに注意することが重要だと考えます。
- 定期的なアンケートの実施: 振り返り会の前に毎回アンケートを実施し、メンバーの意見を収集します。これにより、常に最新の課題や改善点を把握することができます。そして、振り返り会を常に最新の情報に基づいて行うことができるので、より効果的な議論ができるようになります。
- 柔軟な議題設定: プロジェクトの状況に応じて、議題を柔軟に設定することが重要になります。特定のフェーズで問題が発生した場合には、そのフェーズに関連する議題を増やし、逆に問題が少なかったフェーズについては簡略化するなど、会議の効率を高める工夫が必要になります。
- ファシリテーターの役割強化: ファシリテーターが議論を効果的に進行させるためのスキルを磨くことが求められます。特に、感情的な議論を建設的な方向に導く技術や、全員が参加できるような発言の促し方など、コミュニケーションスキルの向上が重要です。
- アクションプランのフォローアップ: 振り返り会で策定したアクションプランが確実に実行されるよう、定期的なフォローアップを行います。進捗を確認し、必要に応じて修正や追加の支援を行い、計画が実行に移されることを確実にします。
- 継続的な学習と改善: チーム全体で振り返り会の手法について継続的に学習し、改善を続ける姿勢が重要です。新しい振り返り手法の導入や他のプロジェクトチームの成功事例を参考にするなど、常に最適な方法を模索し続けることが求められます。
これらのポイントを押さえることで、振り返り会をさらに効果的なものにし、プロジェクトの質を向上させることができます。
最後にまとめとして、振り返り会を成功させるための要点と今後の展望について解説します。
6. まとめ
振り返り会を成功させるための要点
振り返り会を成功させるためには、以下の要点を押さえることが重要だと考えます。
- 事前準備の徹底: 振り返り会の前に事前アンケートを実施し、メンバーから具体的な意見を収集することがポイントです。これにより、議論の方向性が明確になり、効率的な話し合いを進めることができます。
- 振り返りの観点の共有: 振り返りの観点を事前に全員と共有することで、客観的かつ建設的な議論が可能になります。具体的な観点に基づく話し合いが、振り返りの質を高めます。
- KPT手法の効果的活用: 振り返り会では、KPT(Keep, Problem, Try)手法を活用して、成功事例、課題、改善策を具体的に洗い出します。建設的な意見交換を促進し、次回のプロジェクトへの具体的な改善策を見つけ出すことができます。
- ファシリテーションスキルの向上: ファシリテーターは、議論を円滑に進めるために、コミュニケーションスキルを磨くことが重要です。議論が脱線しないよう調整し、全員が発言しやすい環境を整えることが求められます。
- 具体的なアクションプランの策定と実行: 振り返り会で話し合われた内容を具体的なアクションプランにまとめ、実行計画として落とし込みます。明確な計画と定期的なフォローアップを行うことで、改善活動が実行に移されます。
これらの要点を抑えることで、振り返りの質を向上させ、チーム全体の成長とプロジェクトの成功につなげることができると考えます。本記事が皆さまの振り返りの取り組みをさらに効果的にするための一助となれば幸いです。
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