
はじめに
プラットフォーム開発本部 第一開発部 認証グループの菅原です。
DMMでは、プラットフォーム開発本部のAX戦略(AI Transformation)に基づき、各チームでAIエージェントの活用を推進しています。私たちのチームでも、DevinやCursorなどのAIツールを積極的に導入し、開発生産性の向上に取り組んできました。
Devin活用開始当初、生産量(PR作成数)は爆発的に増加したものの、それに伴いPRレビュー負荷の増加という新たな課題が発生しました。
本記事では、これらの課題に対する改善活動を通じて、持続可能なAI活用前提の開発体制を構築するまでの過程を、具体的な数値と実装例を交えてご紹介します。Devin活用を検討している開発チームの皆様にとって、実践的な参考情報となれば幸いです。
1. Devin導入期:生産性の爆発的向上
自律型AIエージェントの可能性に着目
2025年5月、私たちのチームはDevinの試験運用を開始しました。自律型AIエージェントとして注目を集めていたDevinは、タスクを完全に委譲できる可能性を秘めていました。
従来の開発フローでは、CursorやGitHub Copilotなどのコーディング支援ツールを使いながらエンジニアがコードを書き、テストを作成し、PRを作成する一連の作業を手動で行っていました。しかし、Devinを活用することで、これらの作業の大部分をAIに委譲できるのではないかと考えました。
驚異的な成果
試験運用の結果は期待を大きく上回るものでした。
- チーム全体のベロシティは、Devin使用前に比べて、約1.7倍 (平均)
- 個人のタスク消化量は、Devin使用前に比べて、約2.4倍 (平均)
具体的な工数削減効果
実際のタスクで比較した結果、以下のような工数削減を実現しました(一例)。
| タスク | 手作業 | Devin活用 | 削減時間 |
|---|---|---|---|
| 比較的軽微なライブラリアップデート | 2時間00分 | 0時間01分 | 1時間59分 |
| 影響が大きく、ビルドエラーが発生したライブラリアップデート | 8時間00分 | 0時間50分 | 7時間10分 |
| 既存機能の修正 | 2時間00分 | 0時間20分 | 1時間40分 |
合計工数削減:23時間45分(3スプリント分、自チームでは1スプリント2週間)
検証期間は私一人でDevinを活用していましたが、1スプリントあたり約8時間(1稼働日分)の工数削減を実現しました。チームの開発メンバー全員(4人)が同様にDevinを活用すれば、より大きな工数削減を実現できる可能性があります。
これらの数値は、Devin活用が単なる効率化ツールではなく、開発生産性を根本的に変革する可能性を示していました。
2. Devin運用期:PRレビューボトルネックの発生
生産量増加の副作用
Devin導入による生産性向上は確実でしたが、新たな課題が発生しました。PR作成数が爆発的に増加したことで、PRレビューボトルネックが深刻な問題となったのです。
従来の開発フローでは、エンジニアが作成するPRの数は限定的でした。しかし、Devinが大量のPRを生成するようになると、人間によるレビュー作業が追いつかなくなりました。
ボトルネックの実態
問題の構造
- Devinの生産量:約2.4倍向上
- 人間のレビュー能力:変化なし
- 結果:レビュー待ちのPRが蓄積
この状況は、開発生産性の向上に限界があることを意味していました。いくらAIがコードを生成しても、人間がレビューする速度には限界があるからです。
根本原因の分析
PRレビューボトルネックの根本原因は、AI前提のプロセス設計の欠如にありました。
従来の開発プロセスは「人間がコードを書く」ことを前提として設計されていました。そのため、AIが大量のコードを生成するようになると、既存のプロセスが機能しなくなったのです。
従来のプロセス
- エンジニアがコードを書く
- エンジニアがPRを作成する
- 他のエンジニアがレビューする
- マージする
AI導入後の現実
- AIが大量のコードを生成する
- AIが大量のPRを作成する
- エンジニアがレビューする → 発生した課題: 人間のレビュー能力が追いつかない
- マージする → 発生した課題: 上記3で発生した課題により、マージタイミングが遅延
この問題を解決するには、プロセス自体をAI前提のプロセスに作り変える必要がありました。
持続可能な開発体制の必要性
チームの生産性を維持するには、持続可能な開発体制の構築が急務でした。
従来のアプローチでは、以下のような課題がありました。
従来の問題
- 人間のリソースに依存した開発体制
- メンバーのスキルや経験に左右される生産性
解決すべき課題
- AIを活用した自律的な開発体制
- 人間の介入を最小限に抑えたプロセス
この状況下で、私たちはDevin活用の次のステップを模索することになりました。単なる効率化ツールとしてのDevin活用から、AI前提の持続可能な開発体制への転換が必要だったのです。
4. 改善期:持続可能なAI開発体制の構築
Claude Code導入:PRレビューボトルネックの解決
PRレビューボトルネックを解決するため、私たちはClaude Codeを導入しました。特にClaude Code GitHub Actionsは、柔軟にプロンプトも調整でき、PRレビューに特化したエージェントにできる期待がありました。
また、issueやPRコメントから @claude のメンションをつけて指示することで、これまでのエディタでの修正 -> commit / push の開発部分もGitHub上で完結できるようになります。
Claude Code GitHub Actionsの構成
| ワークフロー | 用途 | 効果 |
|---|---|---|
.github/workflows/claude_code_issue_comment.yml |
Issueからタスク実行 | 非同期での作業委譲 |
.github/workflows/claude_code_pr_review_comment.yml |
PRコメントから修正 | レビューコメントの即座修正 |
.github/workflows/claude_code_pr_review.yml |
PR自動レビュー | レビュー負荷の大幅削減 |
自動レビュー判定ワークフローの構築
もっとも重要な改善は、自動レビュー判定ワークフローの構築でした。
ワークフローの仕組み
- PRが作成されると自動的にClaude Code GitHub Actionsがレビューする
- PRを「AIレビューのみ」または「人間のレビューが必要」に分類
- AIレビューのみの場合は自動approve
- 修正などあれば、Claude Code GitHub Actionsがインラインコメントを挿入する
分類基準の例
- AIレビューのみ: バリデーション修正、表示ロジック変更など
- 人間のレビューが必要: ビジネスロジック変更、セキュリティ関連など
このワークフローにより、人間がレビューすべきPRとAIのみで処理できるPRを自動的に判別し、レビュー負荷を大幅に削減できる見通しが立ちました。
工夫した点:コンテキストの使い回し設計
Claude Code GitHub Actionsを効果的に活用するため、コンテキスト管理を工夫しました。
CLAUDE.mdの導入
- セッション開始時に自動的に読み込まれるファイル
- AGENTS.mdを参照するように設定
AGENTS.mdの設計
- リポジトリのコンテキストや、コーディングルールなどが書かれたmdファイルを読み込み
- 複数のAIエージェントで共通利用可能な設計
使い回しのメリット
- Devin、Cursor、Claude Codeなど、異なるAIエージェントでも同じコンテキストを利用
- コンテキストの一元管理により、メンテナンス負荷を削減
- AIエージェントの切り替え時も、継続性のある品質を維持
/.claude
|_ /memory
|_ role.md
|_ context.md
|_ coding_standards.md
|_ pr_review_classification.md
|_ pr_review_comment_rules.md
AGENTS.md
CLAUDE.md
Pull Requestが作成されると、ワークフローが実行され、Claude Code GitHub ActionsがPRレビューを開始します。分類: AIレビュー かつ修正箇所がない場合は、自動でapproveするようにしました。



まだ、Claude Code GitHub ActionsのPRレビュー分類は試験運用中ですが、エンジニアがレビューするべきPull Requestを、AIレビューのみに誤認してしまうケースは発生していないので、十分な精度がでていると感じています。
このまま、本格運用に移行できれば、エンジニアのPRレビュー負荷は、これまでの半分になる想定です。
Devin Playbooks活用:コンテキストの自動育成
持続可能なAI開発体制を実現するため、DevinのPlaybooks機能を活用したコンテキスト自動育成ワークフローを構築しました。
コンテキスト育成Playbook
- 実行頻度: 毎週月曜日9:00
- 処理内容: PRコメントのコメント (bot以外) から有用な情報を抽出
- 更新ファイル:
.claude/memory/coding_standards.md.claude/memory/context.md
完全自動化ワークフローの実現
これらの改善により、以下のような完全自動化ワークフローを実現しました。
コンテキスト自動更新
Slackワークフロー → Devin Playbook → コンテキストファイル / コーディングルール更新 → PR作成


AIに読み込ませる、これらのマークダウンファイルを、エンジニアが普段の業務の合間でメンテナンスし続けるのは、難しいです。
また、主なメンテナーが退職や異動により、その後誰もメンテナンスしなくなってしまう、というリスクもあります。
AIを使いワークフローを構築しておくことで、エンジニアの介入を最小限にでき、コンテキストのメンテナンスを続けやすい仕組みになっています。
ちなみに、このcontext.mdとcoding_standards.mdについては、一からエンジニアが書いたわけではありません。Devinにリポジトリ全体を走査させて、リポジトリのドメイン知識や、コーディングスタイルを確認させて作成しました。そして、別のAIエージェントを使い、AIが理解しやすい形に構造化 (XMLタグを利用するなど) しました。
持続可能性の実現
これらの改善により、以下の持続可能性を実現しました:
人間の介入最小化
- コンテキストメンテナンス:自動化
- PRレビュー:50%をAIのみレビューでマージ可能
スケーラビリティ
- AI活用のノウハウが自動的に蓄積
- 新しいメンバーへの知識移転が不要
まとめ
Devin活用の本質的な価値
本記事で紹介した取り組みを通じて、Devin活用の本質的な価値が見えてきました。それは、単なる効率化ツールとしてのDevin活用から、AI前提の持続可能な開発体制への転換です。
従来のDevin活用
- 人間の作業をAIで置き換える
- 既存プロセスにAIを当てはめる
- 一時的な生産性向上
AI前提の開発体制
- AIと人間の協働を前提としたプロセス設計
- 持続可能な自動化システム
学んだこと
プロセス設計の重要性
Devin活用の成功は、ツールの選択よりもプロセス設計に依存します。既存のプロセスにAIを当てはめるのではなく、AI前提のプロセスに作り変えることが重要です。
持続可能性の確保
一時的な生産性向上ではなく、持続可能な仕組みの構築が重要です。人間の介入を最小限に抑え、自動化できる部分は徹底的に自動化する必要があります。
今後の展望
私たちのチームでは、さらなるDevin活用を目指しています。現在、検証しているのは、AIが定期的にリポジトリを走査し、発見した負債箇所をIssue化します。エンジニアが内容を確認して問題なければ、Claude Codeに修正させPRを作成します。最低限のチェックポイントはありますが、リポジトリのリファクタを自動で進めてくれます。
まだ、完全に自動化するには精度が不十分な部分があるので、簡単なリファクタから始めている状態です。これから、より広範囲のリファクタをAIで自動化していきたいと考えています。
最後に
Devin活用は、開発生産性を根本的に変革する可能性を秘めています。しかし、その可能性を実現するには、適切なプロセス設計と持続可能な仕組みの構築が不可欠です。
本記事で紹介した取り組みが、Devin活用を検討している開発チームの皆様にとって、実践的な参考情報となれば幸いです。AI前提の開発体制構築は、決して簡単な道のりではありませんが、その先には持続可能で安定した開発生産性が待っていると考えています。
DMMでは、プラットフォーム開発本部のAX戦略の下、各チームがAI活用の最適解を模索しています。私たちの取り組みも、その一環として継続的に改善を重ねていきます。
AI前提の開発体制構築という新しい挑戦に、一緒に取り組んでくれる仲間を募集しています。
興味があれば、ぜひ募集ページをご覧ください!