
1. はじめに
こんにちは。DMM.comでプラットフォーム開発本部の副本部長をしている石垣@i35_267です。 今回は、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社と25年9月1日から2日間にわたって行われた「AWS AI-DLC」について学びとこれからについてご紹介できればと思います。

AI-DLC(AI駆動開発ライフサイクル)とは?
AI-DLCは、ソフトウェア開発に対するAIエージェントを用いた開発プロセスの考え方です。
AWSの記事から引用すると以下の2つの特徴があります。
- AI が実行し人間が監視する:AI は体系的に詳細な作業計画を作成し、積極的に意図のすり合わせとガイダンスを求め、重要な決定は人間に委ねます。これが重要なのは人間だけが情報に基づいた選択をするために必要なビジネス要件の文脈的理解と知識を持つからです。
- ダイナミックなチームコラボレーション:AI がルーティンタスクを処理する一方で、チームはリアルタイムでの問題解決、創造的思考、迅速な意思決定のために、コラボレーションしやすい環境で協力します。この孤立した作業から活気のあるチーム作業への転換は、イノベーションと成果物の提供を加速します。
引用 : AI駆動開発ライフサイクル:ソフトウェアエンジニアリングの再構築
つまり、AIを使うことで開発フェーズの単一プロセスが早くなっているため、開発プロセスを分けずにビジネス・デザイン・エンジニアなど関わる人たちが、1つのところに集まってモブプロしながら意思決定した方がリードタイム短縮につながるという思想です。

引用 : AI-Driven Development Lifecycle (AI-DLC) Method Definition
AI-DLCは、開発サイクル全体を①Inception→②Construction→③Operationの3フェーズの流れで進めます。 これを“モブプロ”のスタイルで進めていきます。
- Inceptionフェーズ: ビジネスの要望をAIが具体的な要件に落とし込みます。チーム全員でAIの質問に答えながら、何を作るべきかを明確にしていきます。
- Constructionフェーズ: AIがシステム設計やコード実装を提案します。チームはその場で技術的な判断をして、実装方針を決めていきます。
- Operationフェーズ: AIがインフラのコード化やデプロイを担当します。チームは全体を監督しながら、本番環境への適用を進めます。

引用 : AI駆動開発ライフサイクル:ソフトウェアエンジニアリングの再構築
現状の開発プロセスに落とし込むと、PdMを中心に「PRD(Product Requirements Document)」を作り、そのあとにエンジニアを中心に詳細設計としてDesign Docを作ります。出来上がったPRDやDesign DocをもとにUIデザインや開発といったモノ作りのフェーズに移ります。 InceptionフェーズはPRDのようにPdMが中心となってモブプロし、ConstructionフェーズではDesign Docを作りながら実装も行う流れになります。

2. 抱えていた課題
現状、プラットフォーム開発本部で推進していこうと思った方向性は、プロセスを"AI"に置き換えるのではなく、"AI"前提のプロセスに作り変えることです。 目的のセンターピンとして、既存の業務プロセスにそのままAIを当てはめようとしてしまうのはよくある間違いです。 このやり方では、かえって大きな工数が発生することもあるため、AIネイティブなワークフローへ業務プロセスを変更していく必要があります。
その際、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)による抜本的な業務フローの見直しをしながら、そこにAIの要素を追加していきます。BPRとは、Business-Process-ReEngineeringの略で業務プロセス全体をゼロベースで再設計し、制約の解消や全体最適化を目指します。
参考: DMMのプラットフォーム基盤が目指す、 AX戦略(AI Transformation)
背景としては、従来の開発プロセスでは要件定義から設計、開発、テスト、リリースまでのリードタイムが長く、市場の変化に迅速に適応できていないという課題がありました。特に各工程間での待機時間や調整コストが全体のスループットを下げる要因となっていました。
さらに、開発プロセスの改善を考えるうえで重要な視点として、コーディング自体がボトルネックになることは少ないと考えています。 本当のボトルネックは以下のような人的なオーバーヘッドです。
- コードレビュー
- メンタリングとペアリングによる知識移転
- テスト、デバッグ
- 調整とコミュニケーション
これらすべてが、チケット管理、計画の会議、アジャイルの慣習という中に閉じ込められていました。
3. AWS AI-DLCへの参加の目的
これらの課題を解決するため、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社が提供する「AI-DLC(AI-Driven Development Life Cycle)」ワークショップに参加しました。
2日間で4チームが参加した背景と、ワークショップの概要についてご紹介します。
今回のワークショップのコンセプトはAIネイティブな開発プロセスの実現です。単一プロセスへの適応ではなく、開発全体のリードタイムを短縮することです。 AIによって単一プロセスの工数は短縮しますが、各プロセス間にリードタイムがかかるためその部分を短くする必要があります。意思決定者(PdM)とクリエイターが近くにいて高速に意思決定と作業を繰り返すことで開発プロセスを早くしていくことを実践的に学ぶ場となりました。
4. 当日の様子
各チームはPdM、デザイナー、エンジニアなど異なる役割のメンバーで構成され、それぞれが異なるテーマに取り組みました。
1日目の流れ
1日目は、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社によるAI-DLCの概要説明とデモからスタートしました。 実際のAIエージェントがどのように要件を詳細化し、コードを生成していくかを目の当たりにすることで、参加者全員が具体的なイメージを持つことができました。

Inceptionフェーズ
その後、各チームに分かれて実際のワークショップがスタート。 Inceptionフェーズでは、主にPdMが実際に画面を共有しながらAIとの対話を通じて要件を明確化していきます。 「なぜ作るのか」「何を作るのか」をチーム全員で議論しながら、AIが生成する質問に答えていく形式です。

2日目の流れ
2日目は、実装するフェーズとしてConstructionフェーズになります。
Constructionフェーズ
Inceptionフェーズからバトンタッチして、主導するのはエンジニアやデザイナーになります。 AIが提案するアーキテクチャやコード実装、デザインに対して、チームメンバーがリアルタイムでフィードバックします。その場で修正し、従来の開発プロセスでは数日から数週間かかる設計とコーディングを、わずか数時間で完了させるチームも出てきました。
チームによっては、同じチームをさらに分解して既存のシステムに対して実装するチームと既存のしがらみをなくした状態で全く新しいシステムを作っているチームもありました。

5. 実施結果
実施した結果は以下のとおりです。
主要成果指標
- 参加者満足度: 4.3/5.0
- 継続希望: 87% が継続フォローアップを希望
- 技術的達成: 全4チームがコード生成〜動作確認完了
- 働き方変革期待: 4.1/5.0
2日間という短期間でしたが、参加者の満足度は高く、特に83%の参加者が継続的なフォローアップを希望するという結果になりました。 全チームが実際にコード生成から動作確認まで完了できたことで、AI-DLCの実現可能性を体感できたことが大きな成果です。
工数の変化
また、ワークショップ内で扱ったプロジェクトを従来の開発プロセスと比較した結果、以下のようになりました。
| 従来工数 | AI-DLC工数 | 短縮率 |
|---|---|---|
| 4.5人月 | 1-2人月 | 56-78% |
| 10-14人日 | 3-8人日 | 20-70% |
| 2週間 | 2日 | 85% |
プロジェクトの規模によって差はありますが、最大で80%の工数削減が見込める結果となりました。 これは、AIによる作業効率化だけでなく、モブプロによるリアルタイムな意思決定と、各工程間の待ち時間削減が大きく寄与しています。

6. AI前提の開発プロセスで学んだこと
従来のソフトウェア開発とは異なるAI開発特有のプロセスについて、実践的な学びを得ることができました。チーム間で共有された知見や、印象的だった手法・ツールについて詳しく解説します。
メリット
- 意思決定の速さ
- 開発プロセスに馴染ませるためには工夫が必要
- PdMがボトルネックになるプロセスへ
ワークショップを通じて、当初抱えていた課題に対する具体的なアプローチが見えてきました。各チームの気づきや発見を踏まえ、実現可能な解決策について整理します。
課題に感じた点
- リモートワークだとどう実現するか
- ステークホルダーが多いものの場合どうするか(バッチサイズの問題)
- スコープを小さくすることが最大の課題
- 体制面として意思決定者の時間確保
- AI-DLC についての理解(スクラムマスター的なAI-DLCマスターのような人がほしい)
7. おわりに
今回のワークショップ参加を通じて得られた価値は膨大であり、リモートワークの場合と出社の場合にどうAI-DLCの形式を活かしていくか、適した課題は何かを考えていければと思います。 DMM.comではエンジニアを随時募集しています。カジュアル面談も行っていますので、気軽に話したい方はぜひお申し込みください。