
想定読者
本記事は、以下のような方々を想定読者としています。
- QAエンジニア、テストエンジニア、品質保証に関わる実務者
- AI技術の品質保証への応用に関心をお持ちのエンジニア
- AIプロダクトの品質管理に課題を感じている開発者、プロダクトマネージャー
- 組織におけるAI活用戦略の策定に携わる管理職、経営層
記事の目的
本記事の目的は、私たちが新たに策定した「QA部 AX宣言」について詳しくご紹介することです。この宣言は、AI技術と品質保証の関係を「AI for QA」と「QA for AI」という二つの軸で整理し、従来の枠組みを超えた新たな品質保証の実現を目指しています。
本記事および今後の関連記事を通じて、読者の皆様に以下の内容をお伝えできればと考えています。
- AI時代における品質保証の新しいアプローチと考え方の共有
- 「AI for QA」と「QA for AI」の概念と方向性の紹介
- AIと人間が協働する品質保証体制の構築に向けたヒントの提供
- 組織としてのAI活用ビジョンの策定と実行における参考情報の提供
はじめに
こんにちは、QA部でQAエンジニアをしている大段です。
4月に公開した記事「DMMのプラットフォーム基盤が目指す、AX戦略(AI Transformation)」では、DMMのプラットフォーム基盤のAX戦略をご紹介しています。 developersblog.dmm.com
QA部が直面する課題
私たちQA(品質保証)組織では、近年の技術変化と組織の成長に伴い、いくつかの重要な課題に直面しています。
AIプロダクト開発の本格化
社内でAIサービスを含めたプロダクト開発への着手が本格化しており、従来の品質保証手法では対応が困難な新たな品質要件への対応が将来的に求められています。 AIプロダクトには、機能面だけでなく、バイアス、公平性、説明可能性といった従来のソフトウェア品質とは異なる観点での評価が必要となります。
テスト実行リソースの肥大化
支援プロダクトの拡大に伴い、テスト実行に必要なリソースが大幅に増加し、従来の人手に依存したテスト手法では効率性と網羅性の両立が困難になってきました。 限られた時間とリソースの中で、より多くのプロダクトに対して高品質な品質保証を提供する必要があります。
部内スキル格差とフォロー工数の課題
部内メンバー間のスキル格差やフォロー工数の肥大化も深刻な課題となっています。新しい技術領域やプロダクトが増える中で、すべてのメンバーが同じレベルで対応できるわけではなく、特定のメンバーに負荷が集中し、知識の属人化が進んでいる状況です。
AX戦略への取り組み
これらの課題を解決し、持続可能で効率的な品質保証体制を構築するために、私たちはAI技術の活用に注目しました。
私たちQA(品質保証)組織では、このDMMのプラットフォーム基盤のAX戦略を受けて、AI技術の進歩を単なる技術的な進歩として捉えるのではなく、品質保証そのものを根本から見直す機会として位置づけています。この考えのもと策定された「QA部 AX宣言」は、AI技術と品質保証の関係を「AI for QA」と「QA for AI」という二つの軸で整理した、私たちの新たなビジョンです。
「AI for QA」:AIが品質保証を進化させる

「AI for QA」は、AI技術を活用して従来の品質保証業務を効率化・高度化するアプローチです。 テスト自動化、異常検知、品質予測など、AIの力を借りてQA業務の精度と効率を飛躍的に向上させることを目指します。
テスト自動化の進化
生成AIを活用したテストケース自動生成は、私たちの品質保証アプローチを劇的に変化させます。人間では発見が困難な複雑なテストシナリオを創出し、過去の不具合パターンから学習したリスクベースドテストを実践することで、より網羅的で効率的なテスト戦略の構築を目指します。
今後の具体的なアクション
- 生成AI活用テストケース生成基盤の構築:Claudeなどの生成AIを活用し、仕様書やソースコードから自動的にテストケースを生成するパイプラインを構築する
- テスト実行の完全自動化:UI自動化ツール(Playwrightなど)と生成AIを組み合わせ、テストケース作成からテスト実行、結果検証までの完全自動化を段階的に実現する
異常検知と継続的監視
AIによる異常検知システムの導入により、本番環境での問題を未然に防ぎ、ユーザー体験の向上に大きく貢献します。システムが24時間体制で継続的に監視することで、人間では見落としがちな微細な変化も早期に発見することを目指します。
今後の具体的なアクション
- 障害アラートの収集・判定の仕組み化:各プロダクトから発生する障害アラートを統合的に収集・管理し、重要度や影響範囲に基づいて自動判定できる仕組みを構築する。
品質予測と予防的品質保証の確立
コードや作業成果物の変更履歴、開発者の作業パターン、各種メトリクスを総合的に分析することで、品質リスクを事前に予測する予防的品質保証の確立に取り組みます。これにより、問題が顕在化する前に適切な対策を講じ、開発効率と品質の両立の実現を目指します。
今後の具体的なアクション
- リアルタイム品質ダッシュボードの構築:開発中のプロダクトの品質状況をリアルタイムで可視化し、リスクの高いモジュールを即座に特定できる仕組みを構築する
- 予防的テスト戦略の自動立案:生成AIを活用し、現状の品質状況に基づき、最適なテスト戦略とリソース配分を自動提案する仕組みを構築する
「QA for AI」:AIプロダクトの品質基準を確立する

「QA for AI」は、AIプロダクト特有の品質要件を定義し、従来の品質保証で対応できないAI固有の課題に取り組むアプローチです。公平性、透明性、説明可能性といったAI倫理の観点から、データ品質やモデルの信頼性まで、AIプロダクトの包括的な品質保証の実現を目指します。
従来の品質要件を超えた包括的な品質評価
AIプロダクトが社会に与える影響の大きさを認識し、従来の機能要件を超えた包括的な品質評価に取り組みます。公平性、透明性、説明可能性、堅牢性、プライバシー保護といったAI特有の品質要件を定義し、体系的な評価フレームワークの構築を進めます。
今後の具体的なアクション
- AI案件への積極的参画:社内のAIプロダクト開発案件に積極的に参画し、実践を通じてAIプロダクト品質評価の知見を蓄積する
- AIプロダクト品質評価方法の具体化:参画した案件の知見やIEEE、ISO等の国際標準やガイドラインを参考に、DMM QA(品質保証)組織としてのAIプロダクト品質評価方法を確立する
データ・モデル品質の徹底的な検証
学習データの完全性と代表性を検証し、バイアスの検出と排除に積極的に取り組んでいます。データがAIモデルの性能と公平性に直結することを深く理解し、データ品質の向上に重点を置きます。
今後の具体的なアクション
- AI案件への積極的参画:社内のAIプロダクト開発案件に積極的に参画し、データ品質検証の実務を担当し、ノウハウを蓄積する
- データ品質検証の自動システム構築:蓄積したノウハウをもとに、データの完全性、一貫性、代表性を自動的に検証し、品質スコアを算出するパイプラインを構築する
継続的な監視と信頼性の保証
モデルの精度、安定性、再現性を継続的に監視し、敵対的攻撃への耐性やモデルドリフトの早期発見により、AIプロダクトの信頼性を保証しています。また、AIプロダクト倫理ガイドラインの遵守、規制要件への対応、監査可能性の確保を通じて、責任あるAI開発を支援します。
今後の具体的なアクション
- AI品質保証コミュニティでの知見共有:社外のAI品質保証コミュニティや勉強会に積極的に参加し、業界動向とベストプラクティスを継続的に学習する
- AI監査・コンプライアンス知識の強化:AI関連法規制、監査手法、コンプライアンス要件に関する専門知識を体系的に学習し、部内エキスパートを育成する
相互補完による品質革新
私たちが目指すのは、AIがQAを支援し、QAがAIを検証するという相互補完関係を核とした品質保証体制です。人間の創造性、直感、倫理的判断力と、AIの高速処理能力、パターン認識、大規模データ分析力を最適に組み合わせることで、従来不可能だった品質レベルの達成を目指します。
実際に得られている効果
すでに私たちは、AI活用による相互補完の効果を実感し始めています。
QA活動を支援するツール開発やQA業務の経験が浅いメンバーに対するサポートをAIがしてくれることで、今までできなかったQA活動や支援プロダクトへの対応が可能になっています。 経験豊富なメンバーでなければ対応困難だった複雑な品質課題に対しても、AIのサポートを得ることで、チーム全体のスキルレベルの底上げと対応力の向上を実現できています。
具体的な効果事例
- AIサポートによる経験がないメンバーへのテスト見積もり活動サポート:従来は経験豊富なメンバーに依存していた見積もり業務を、AIの支援により新人メンバーでも適切に実行可能
- AIサポートによるテスト分析・テスト設計での素案の作成:従来は経験を要していた分析・設計業務において、AIが初期素案を提供することで、効率的な作業が可能
- プログラミング経験のないメンバーでも不具合分析ツールやデータチェックツールの作成:コードが書けないメンバーでも、AIとの対話を通じて実用的なツールを開発・活用可能
従来であれば特定のスキルを持つメンバーに依存していた業務が、AI活用によりチーム全体で対応できるようになりました。
また、単純作業をAIに任せることで、人はQA活動に対してより新しい方法やより良い方法がないか考えたり、実現に向けて試行錯誤するための時間に集中できるようになりました。これまで手作業に費やしていた時間を、創造的な品質改善活動や戦略的な品質保証の検討に充てることができ、QA(品質保証)組織全体の付加価値向上につながっています。
この相互補完関係こそが、私たちの品質保証アプローチの核心であり、単純にAIに業務を置き換えるのではなく、人間とAIがそれぞれの強みを活かしながら協働する新しい働き方を模索します。
私たちの約束

継続的学習と透明性への取り組み
AI技術の急速な進歩に対応するため、組織として継続的に学習し、新たな課題に挑戦し続けます。すべてのAI活用において透明性を保ち、判定根拠の追跡可能性を確保し、ステークホルダーに対する説明責任を果たすことを重視します。
重要なのは、最終的な品質判断の責任は常に人間が負い、AIはその支援ツールであることを明確にしていることです。技術の進歩に惑わされることなく、人間が主体的に品質保証に関わり続けることが、真の品質向上につながると考えています。
データ保護と多様性の尊重
顧客データとプライバシーを最優先で保護し、データガバナンスを徹底することをお約束します。また、多様性を尊重し、包括的な品質評価により、すべてのユーザーにとって安全で使いやすいプロダクトの実現に貢献します。
おわりに
DMM QA部における「AX宣言」は、単なる技術的な宣言ではありません。私たちがどのような価値観を持ち、どのような未来を目指すのかを明確に示した組織のビジョンです。
「AI for QA」と「QA for AI」という両軸のアプローチにより、従来の品質保証の枠組みを超えた新たな価値を創造し、ユーザーの皆様により良いプロダクトをお届けできるよう、QA部全員で取り組んでいきます。
技術は日々進歩していますが、私たちが大切にするのは「人間中心」の品質保証です。AIという強力なパートナーと共に、より良い未来を築いていきたいと思います。
また、現在のQA部では、「AI for QA」の実現に向けて少しずつ取り組んでいます。QA活動にAIを活用していくための取り組みを引き続き、ご紹介していく予定です。